これまでのエントリーでも取り上げて来ましたが、マラソン終盤において必ずと言っていいほど発生する脚の痙攣は長年に渡る切実な悩みです。


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そんな中、いつものごとく何か有益な情報はないかとあれこれ探していたところ、比較的新しめ(2016年)のレビュー論文を見つけました。

『A Narrative Review of Exercise-Associated Muscle Cramps: Factors that Contribute to Neuromuscular Fatigue and Management Implications』NICOLE L. NELSON, MSH, LMT, and JAMES R. CHURILLA, PhD, MPH Clinical and Applied Movement Sciences, Brooks College of Health, University of North Florida(『運動誘発性筋痙攣に関する記述レビュー: 神経筋疲労の要因と対処法』といったとこでしょうか)

“Narrative Review”ということで独自の研究データに基づいた新しい発見があるわけではなく、過去の研究をまとめたものではありますが、運動誘発性筋痙攣(EAMC)に関する数多くの研究のエビデンスをもとに、現時点で考えられるリスク要因と対処方法がよく整理されているので、要訳しておきたいと思います。

※いかんせん、なれない論文英語で、専門用語も多くなるので訳に自信がない部分もあると、予め言い訳をさせて頂きます、、、(汗)

【以下要訳】


EAMCに関する2大仮説

結論としては、EAMCに関しては多くの研究があるものの、現時点では原因・メカニズムの解明にまでは至っていない。

EAMCの原因に関する仮説としては下記2つの説が多くみられた。1.の説は広く知られ信じている人も多いが、エビデンスに基づいてみると、2.の説の方が有力。

  1. 脱水、及び電解質の不均衡説
  2. 神経筋制御の異常説

1.については電解質不足とEAMCとの関連がみられたという研究があるものの、その研究に手法には突っ込みどころがいくつもありエビデンスに乏しく、一方で痙攣しがちな人とそうでない人の間では血漿(けっしょう)電解質濃度に差は見られなかったという研究もいくつかある。痙攣が発生した箇所をストレッチすることで和らぐということからも脱水や電解質を原因とすることには疑問が残る。

神経筋制御の異常説

この説は神経筋疲労による反射制御の異常に起因すると唱えるケープタウン大学のSchwellnus教授によって広まった。筋肉に過剰な負荷がかかり疲労たまると、筋紡錘※1からの興奮司令(収縮)とゴルジ腱器官※2からの抑制司令(弛緩)がアンバランスな状態を引き起こし、その結果α運動ニューロン(筋肉の収縮を司る神経細胞)が興奮して痙攣に繋がるというもの。

※1筋紡錘:筋肉にあるセンサー。筋肉が伸びすぎた時に断裂しないように収縮させる。
2ゴルジ腱器官:腱にあるセンサー。(筋肉の収縮で)腱が伸びすぎた時に筋肉を弛緩させる。
参考: 出沢明PEDクリニック (日本語ではこちらの説明がわかり易かったです)

これに加え、ストレッチをすることがα運動ニューロンへの信号のバランスを取り戻し、痙攣への処置として有効であるということも明らかになっており、この説のより有力なものとしている。

神経筋制御の異常に関するリスク要因

各種研究から見られる神経筋制御の異常と相関性のあるリスク要因を以下にまとめる。★印がついている要因については、有力なエビデンスがあるが、あくまでもこれらの研究は観察研究であり、因果関係までは推論できないという点には注意が必要。

過去の痙攣歴

  • 痙攣には個人差があり、攣りやすい人もいれば、攣らない人もいる。CTF(Cramp Threshold Frequency)という痙攣を引き起こすのに必要な最小の電気刺激が異なる。
  • 過去に攣ったことがある人は、攣ったことがない人に比べて攣りやすい(運動中もしくは運動後すぐに)という研究がいくつかある。

遺伝

  • 痙攣の遺伝性はあいまいで、家族の痙攣経験との関連性が見られた研究もあれば、見られなかった研究もある。

性別

  • 性別による攣りやすさは見られ、同等強度の運動をしても男性の方が女性よりも攣りやすいことが明らかになっている。メカニズムは解明されていないが、男性の方が歩行筋におけるType II筋繊維(速筋)の割合が高いからではないかという説がある。加えて、女性は男性と比べて同等強度の運動において、脂肪をより多く、炭水化物をより少なく使用することが明らかになっており、脂質代謝能から男女差を説明できるかも知れない。

年齢

  • 年齢差による攣りやすさのエビデンスは限られており、年齢が高いほうが攣りやすいという研究もあれば、年齢による関連性は見られなかったという研究もある。

体型

  • BMIとの関連性は見られていない
  • 背の高さとの関連性に関するエビデンスは限られており、あいまいで、関連性が見られなかった研究もあれば、痙攣の経験のある人は、経験のない人と比べて背が高かったという研究もある。後者の研究では、背の高い人の下腿の構造の違いがランニングエコノミーに影響し、筋疲労に繋がっているのではないかと推測している。

運動強度・運動時間

  • 運動強度・運動時間は筋疲労とEAMCに関連するリスク要因として最も広範囲に研究されており、EAMCと長時間に渡る高い強度の運動とでは、一貫した関連性が見られている。

負傷経験

  • 攣りやすい人は、攣らない人と比べて、腱、靭帯に負傷経験がありがち。負傷箇所付近の筋肉が局所的に弱くなっており、疲労しやすくなっていることが説明としては考えられる。

対処方法と予防方法

EAMCの対処方法・予防方法は、その原因が不確かであるが故に多岐に渡るというのが実際のところではあるが、効果がみられたとする研究結果を以下にまとめる。

電気誘導による痙攣

電気で刺激を与えて痙攣の誘発を継続すると、CTF(Cramp Threshold Frequency = 痙攣するまでに必要な最小限の電気刺激)が上がる、つまり痙攣しにくくなったという研究あり。この研究では、電気刺激による痙攣の誘発が中枢神経系の適応を引き起こし、α運動ニューロンへの興奮指令と抑制指令がリバランスされるのではないかとしている。

キネシオテープ・コンプレッションウェア

経験的証拠は少ないが、キネシオテープやコンプレッションウェアの使用は着地衝撃による軟組織の振動を弱め、筋肉の動きを改善されることで、筋疲労が起こす走りの変化による影響を相殺すると考えられている。

マッサージ

マッサージによって神経の興奮、運動ニューロンプールの興奮、脊髄反射の興奮が抑えられたといった研究がいくつかある。ただ、マッサージによって神経系に変化が生じることは分かっても、それが実際に筋紡錘からの興奮指令とゴルジ腱器官からの抑制司令のバランスをとることに繋がっているか判断するにはもっと実験的エビデンスが必要。

電解質補給・水分補給

電解質不足や脱水とEAMCを結びつける実質的データが不足していることを考えると、塩タブレットやマグネシウムサプリメントがEAMCに有効だとは思えない。ただし、熱中症の予防として、運動時の水分補給や電解質補給のガイドラインに従うことを推奨すること自体は理にかなっている。

矯正エクササイズ

体の構造、アンバランスな筋肉、悪い姿勢を矯正するエクササイズの効果については、少ししかエビデンスがないものではあるが、プライオメトリクストレーニングによる筋神経の改善は理に叶っており、EAMCの防止に有効かもしれない(但し、最適な回数、強度等には更なる研究が必要)。大臀筋を鍛えることでハムストリングの痙攣しなかったという研究はある(大臀筋が弱いとハムストリングの負荷が増すという考え)。

ストレッチ

事前のストレッチとEAMCの関連性は見られなかったが、疲労に起因した痙攣にはストレッチがもっとも有効な処置だと思われる。メカニズムの詳細は不明確だが、ストレッチがゴルジ腱器官の緊張を高め、α運動ニューロンへの抑制指令を増すことに繋がる可能性が示唆されている。

キニーネ

キニーネとはキナの樹皮に含まれる成分。200–300 mg/日のキニーネの摂取が夜間の突発性痙攣のリスクを下げることが明らかになっているが、キニーネは血小板減少症に関連していることから、米国では筋痙攣への使用は禁じられている。EAMCへの有効性を示すデータもない。

ピクルスジュース

ピクルスジュースを飲むことというのもEAMCの処置としては一般的となっており、ピクルスジュースに含まれる高濃度の塩と酢酸には痙攣した筋肉における神経伝達物質の活動の抑制に繋がる反射を引き起こすと考えられている。痙攣が収まるまでの時間が短くなるという研究あり。

深呼吸

最近の症例集積研究では、20~30回/分の深呼吸を行うことで1分以内に痙攣が完全に収まったと報じられている。(低換気による呼吸性アシドーシスがEAMCに繋がっているという仮説)

結論

EAMCが運動の後半で発症すること、強度の高い運動を行うアスリートが発症することが一般的であることに加え、いくつかの大規模な前向きコホート研究で脱水状態や電解質濃度とEAMCの関連がないことをが明らかになっていることから、神経筋の異常説がEAMCの原因としてはもっとも説得力がある。

いくつかのエビデンスが疲労からくる神経筋説のベースとなっているが、神経筋疲労につながりEAMCの根底にあるリスク要因を明らかにするには更なる研究が必要。

疲労のし易さやそのメカニズムに関する理解が限られているため、もっとも有効な予防方法は解明されていない。ただし、ストレッチをすることがもっとも有効な対処であることについては強力なエビデンスが示唆している。


 

結局のところは「わからない」というの状況は変わらないのですが、情報の整理としては参考になる論文かと思います。

<2018/6/15追加情報>
Exercise Associated Muscle Cramps – A Current Perspective – 2017/03/08 Jun Qiu and Jie Kang

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