以前に『ランニング中の脚つり・痙攣の原因 ~ 運動生理学的研究まとめ』というエントリーを書きましたが、先日の横浜マラソンでまた脚が攣ってしまったことがきっかけで何か新しい情報がないかなあと探していたところ、このテーマに関する新しい論文を見つけたので簡単に紹介しておきます。
運動誘発性痙攣(EAMC)に関する最新の研究
今回見つけたのは次の2つ。
- 『Exercise Associated Muscle Cramps – A Current Perspective(運動誘発性痙攣 – 現時点での見解)』:Jun Qiu and Jie Kang(2017年3月)
- 『The Evolution of Exercise-Associated Muscle Cramp Research(運動誘発性痙攣に関する研究の進化)』:Miller, Kevin C(2018年7月)
それぞれ、2017年、2018年と比較的新しいものですが、いずれも「まとめ系」論文で、結論としては、以前のエントリーと変わっていません。
- 痙攣の要因は色々あって複雑に絡み合っている
- その明確な原因は未だ解明されていない
- よく言われる「脱水・電解質不足説」はエビデンスに乏しい
- 今の所「筋疲労による神経の異常反応説」がもっとも有力
- 対策となりうるものは色々あるが、ほとんどが更なる研究が必要なもの
新しい点
筋紡錘とゴルジ腱器官の図解
1.の論文では「筋疲労による神経の異常反応説」の説明で出てくる、筋紡錘とゴルジ腱器官という初めて聞くと何のこっちゃよくわからないものについて図で解説されていたので、そのメカニズムについて比較的分かりやすくなっています。

筋紡錘
図の左側、筋繊維の絵の真ん中にある”Muscle Spindle”と示された部分ですね。筋肉が伸びすぎたのを筋紡錘が感知して、感覚ニューロン(Sensory Neuron)を通じて脊髄にフィードバックし、運動ニューロン(Motor Neuron)を通じて、「筋肉が切れないように縮め!」と収縮命令を出す関係がこの図で表されています。
ゴルジ腱器官
図の右側、筋肉の付着部(白い部分)にある”Golge Tendon Organ”と示された部分ですね。筋肉の収縮により腱への負荷がかかりすぎたのを感知して、感覚ニューロン(Sensory Neuron)を通じて脊髄にフィードバックし、運動ニューロン(Motor Neuron)を通じて、「腱や筋肉が切れないように緩め!」と弛緩命令を出す関係がこの図で表されています。
実際に痙攣が起こると、自分の意思に反して筋肉が勝手に「ギューッ」と収縮する状態になると思いますが、筋紡錘からの収縮司令に対して、ゴルジ腱器官からの弛緩司令が弱まっているってことなんですね。
脚つり・痙攣に悩む人へのアドバイス
2.の論文では、脚つり・痙攣に悩む人へのアドバイスがあったのが面白かったです。
- 痙攣を起こす要因は色々ある。
- 痙攣を起こすリスク要因は人によって異なるし、同じ人でも(気温などの)環境や体調などのコンディションによって異なる。
- 自分にとってのリスク要因は何かを考え、理解することで、その要因に対して適切な対策を練ることができる。
- その方が、時代遅れのモデル(例:水分を取る、カリウムを取る等)に基づいた、ざっくりとしたアドバイスよりよっぽど有効だ。
確かに解明されていない分リスク要因は色々あるし、個人差・環境差もあると思うので、自分が痙攣した事例を積み重ねて、振り返ることで、自分にとってのリスク要因を考えることは大事だなと思います。
過去を振り返ると自分にとっての一番大きなリスク要因は気温というのが、今のところの仮説です。
まとめ
気温となると、残念ながら自分でコントロールできるリスク要因の排除方法は、本命レースを寒い時期に設定することぐらい。
とはいえ、自分は所詮趣味で走る市民ランナーで、勝負の世界で生きるアスリートではないことを考えると、そういう割り切りもありかと思っています。
これから秋も深まりこれからマラソンシーズンが格化していきますが、これからのレースで事例を積み重ねていくことで、自分にとっての最適な対策というものを実証していきたいと思います。